東京高等裁判所 昭和52年(行ケ)172号 判決
審決を取り消すべき事由の有無について判断する。
証人山本雄策の証言及びこれにより真正に成立したものと認める甲第四号証(原本の存在も)、甲第六号証の一ないし四、甲第二〇号証の六を総合すると、原告の従業員として設計業務に従事していた山本雄策は、昭和四四年九月二六日ころ、西ドイツのベルツ社製タツパーチヤツクの現品及びそのカタログを参照しながら、ZM3―1型タツパーチヤツクの設計図(甲第二〇号証の六―甲第四号証はその写と認められる。)を作成し、これに基づき原告において日研工作所製ZM3―1型タツパーチヤツクを製造し、昭和四四年一一月一九日ころから赤沢機械株式会社、シミヅ産業株式会社及び株式会社オノマシンなどに対して、付属工具とともにセツトとして販売していたことが認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。
そうすると、前示甲第四号証に記載された構成を有するZM3―1型タツパーチヤツクが、本件登録実用新案の出願前に公然と製造販売されていたものと認めることができないとした審決の認定が誤りであることは明らかである。
なお、被告は、甲第四号証、甲第六号証の一ないし四、第八号証は、いずれも本件登録実用新案の構成と同一の構成を備えたタツパーチヤツクが製造販売されていたことを証するものではない旨主張するが、成立に争いのない甲第七号証によれば、被告は原告に対し、原告がZM3―1型として製造販売している日研工作所製タツパーチヤツクが本件登録実用新案と同一の考案と認識して、被告の本件実用新案権を侵害している旨警告している事実が認められるから、被告の右主張は採用の限りでない。
そうすると、審決の前記認定の誤りは、審決の結論に影響を及ぼすべきものといわざるをえない。したがつて、審決は、違法として取消しを免れない。
以上のとおりであるから、審決の取消しを求める原告の本訴請求は理由があるものとしてこれを認容する。
〔編註〕 本件における登録実用新案の考案の要旨および審決理由の要旨は左のとおりである。
本件登録実用新案の考案の要旨
シヤンク1aと管状部1bとを有するシヤンク体1と、シヤンク体1の管状部1bの外側或は内側において軸方向に直接又は間接的に摺動可能に装着されたケーシング2と、管状部1bとケーシング2とにそれぞれ設けた縦溝3、4内においてシヤンク体1とケーシング2とにそれぞれ係合しつつ軸方向に移動可能なスチールボール5と、一端をケーシング2或は管状部1bに固定され、他端をスリーブ6にスリーブ6内は軸方向に可動なるも、スリーブ6からの離脱はできないように保持されたロツド12と、管状部1b内或はケーシング2内にスリーブ6を外端方向に押圧するように配設されたコイルスプリング11と、ロツド12の外周を囲繞し、一端をケーシング2或は管状部1bに、他端をスリーブ6に係合せしめて配設されたコイルスプリング13とからなる・工具用チヤツク。
審決の理由の要旨
(一) 本件登録実用新案は、昭和四五年二月一七日に出願した実願昭四五―一五六二二号を分割して昭和四九年七月八日に実用新案登録出願し、昭和五一年二月一三日に登録されたものであり、考案の要旨は、前項のとおりのものと認める。
(二) (請求人の主張)
(1) 次の各証拠により本件登録実用新案が本件登録実用新案の出願前に公然と実施されたことが明白であるから、本件実用新案登録は実用新案法第三条に該当し無効とされるべきである。
甲第一号証「ZM3―1の機種番号の附された設計図の写」(本訴甲第四号証)
甲第三号証「ZM3―1のほかZMなる機種の販売先の住所社名を記載したタツパーチヤツクの売上台帳の写」(本訴甲第六号証の一ないし四)
甲第四号証「意匠公報(第三六四九七二号)(写)(本訴甲第八号証)
甲第五号証「内容証明郵便写」(本訴甲第七号証)
(2) 次の各証拠により本件実用新案登録が実用新案法第三七条第一項第四号に該当し無効とされるべきことが明らかである。
甲第六号証「本件登録実用新案に関する被請求人のカタログ写」
甲第七号証「ベルツ社カタログ写」
甲第八号証「ベルツ社製品WFLP140―20の断面図」(写)
甲第九号証「ベルツ社からの手紙」(写)
(三) そこで、甲号各証について検討すると、甲第一号証(本訴甲第四号証)は、タツパーチヤツクの設計図の写であつて、日附四四・九・二六の記載があるが、この記載では甲第一号証(本訴甲第四号証)又は同号証に記載されたタツパーチヤツクが本件登録実用新案の出願前公然知られたと認めることができず、その他に公知性を立証するに足る記載はみられない。甲第二号証は添付されていないので、本件の証拠方法として採用することができない。甲第三号証(本訴甲第六号証の一ないし四)は売上台帳の一部の写であり、また甲第五号証(本訴甲第七号証)は警告書の写であつて、これらをもつて甲第一号証(本訴甲第四号証)に記載されたタツパーチヤツクが本件登録実用新案の出願前に公然と製造販売されていたものと認めることはできない。
甲第四号証(本件甲第八号証)は本件登録実用新案の出願後である昭和四八年六月一三日に発行されたものであるので、甲第四号証(本訴甲第八号証)に記載された意匠が本件登録実用新案の出願前に公然と知られ又は実施されたものと認めることはできない。
したがつて、本件実用新案登録は、甲第一号証、甲第三号証ないし第五号証をもつて実用新案法第三条に該当すると認めることはできない。
次に、甲第六号証及び甲第七号証は共にカタログの写であるが、これが本件登録実用新案の出願前に作成され、本件登録実用新案の考案者が知り得たことを立証する証拠方法は何も差し出されていない。甲第八号証は請求人が作成した図面の写であり、この図面がベルツ社製品WFLP140―20の断面図であると信用するに足る証拠方法は差し出されていない。甲第九号証はベルツ社からの手紙の写しであるが、甲第六号証ないし甲第八号証及び本件登録実用新案との関連が見当たらない。
したがつて、本件実用新案登録は、甲第六号証ないし第九号証をもつて実用新案法第三七条第一項第四号に該当すると認めることはできない。
以上のとおり、請求人の主張はいずれも採用することはできないので、本件実用新案登録を無効とすることはできない。